おはようございます。
本日で東日本大震災から 4,743日 が経過しました。
元日の令和6年能登半島地震から 63回目 の朝を迎えました。
啓蟄(3月5日)
さて、明日(3月5日)は、二十四節気の「 啓蟄(けいちつ) 」です。
啓蟄は、あたたかくなって、草木が芽吹き、土の中で冬ごもりしていた虫たちが地上へ這い出してくる季節になったな、という意味です。
昔からの暦(太陰暦)で使われてきた二十四節気では、啓蟄の一つ前は、雪が雨に変わり雪氷がとけ始める頃の「雨水(うすい)」で、啓蟄の次が、昼夜の長さがほぼ同じ「春分(しゅんぶん)」となります。
これから春分の日(3月20日)に向けて、雪が終わり、虫が出始めて、だんだんと《春本番》を迎えることになります。
《 啓蟄の 蟻が早引く 地虫かな 》高浜虚子(1874〜1959)
《 啓蟄を 啣(くわ)へて雀 とびにけり 》川端茅舎(1897〜1941)
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また、今週は
「 春の全国火災予防運動(3/1〜3/7)」と「 春の建築物防災週間(3/1〜3/7)」
の期間中となります。
そして、最終日の3月7日(木曜日)は「 消防記念日 」です。
日本の消防に関する理解と認識を深めるための記念日で、消防組織法が施行された1948年3月7日にちなんだものですが…、
空気が乾燥する日が続くこの季節は、強風が吹くことも多く、大きな火事になりやすいことからも、この3月が消防の記念日となっています。
※関連記事:過去の大火災から得た教訓(思則有備)
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さて、
暖かくなったかと思うと急に寒くなる今の季節
今のこの時期は、冬の冷たい北風と春の暖かい南風が日々入れ替わりながら、次第に南風が増えていき、そして春へと変わる…
そんな、季節の境目です。
この時期(2月〜4月)には、日本列島の近くには、三日か四日の周期で低気圧が行き来するので、天気の変化が早く、それにつれて気温も、寒かったり、暖かかったりします。
暖かくなったかと思うと急に寒くなるので、毎日の服選びも大変で、冬にいちどひいた風邪を、再びひき直してしまう人も多い…と、そんな季節なのです。
実際に、現在、新型コロナ感染症は「第10波」の真っ最中で、季節性インフルエンザも各地で猛威をふるっています。
…そうして、何日か寒い日が続いたかと思うと、今度は何日か暖かくなり、を繰り返しながら、だんだんと春に向かっていきます。
余談ですが、
中国大陸の東北部で冬に約一週間周期の規則的な気温変化がみられるそうですが、この現象を指す中国の古い俚諺(民間伝承)に、《冬は寒い日が三日、暖かい日が四日続く…》といった意味の“三寒四温(さんかんしおん)”という有名な諺(ことわざ)があります。
正確には中国大陸と日本では気候が全く違いますが、この気温の移り変わりの表現が、日本で春へと変わる際の気温変化の状況と似ていることから、日本では春のこの時季を“三寒四温”と呼んだりもします。
いずれにせよ、だんだんと春に向かって暖かくなる今頃は、季節が移り変わる様を肌で感じることができるので、とても素敵な時期と言えそうです。
そして、
このとき、春先に初めて吹く強い南風を「春一番」と呼びます。
今年は、すでに3週間(2月15日~2月19日)も前に春一番が吹きました。
素敵な季節に吹く風は、当然、俳句の季語にもなっています。
三寒四温をくり返すので、春一番が吹いたあとも、強めの南寄りの風はその後も何度か吹きます。
春一番に続く強風ということなので、春本番へと向けて、この後に続く強風には、
春二番、春三番、春四番…
などと俗称が付けられています。
しかし、これらは正式な気象用語ではないのだそうです。
先週、関東や北日本、東日本で暴風が吹き荒れました。
先週の2月27日(火曜日)から28日(水曜日)にかけて、関東地方に台風並みの強風が吹きました。
本州の東の海上で低気圧が発達した影響で、冬型の気象配置となって、東京に強い北風が吹いたようです。
なんと、東京都心では最大瞬間風速26.2メートルを記録。
八王子では最大瞬間風速28.1メートル。
ここまで強い(冬季の東京の)北風は、2008年以来16年ぶりなのだそうです。
強風の影響で、羽田空港では84便が欠航し、首都圏の在来線も一時運転を見合わせたため、約4万人の足に影響がでたそうです。
その後も冬型の気象配置が強まった影響で、週末の土・日(3月2日〜3日)と、北日本や東日本の沿岸部を中心に強風が吹き荒れたようです。
これが「春二番」だったのかどうか、基本的に春一番以外はほとんど報道されることがないので、実はよくわかりませんが…、
今回は、南寄りの風ではなく、北寄りの強風だったことから、春二番では無い、と思います。
春一番の歴史
「春一番」という言葉は、離島研究で著名な民俗学者・宮本常一(みやもと つねいち / 1907〜1981)氏が、昭和11年(1936年)に初めて論文で紹介した言葉でした。
もともとは、海で命がけの漁をする漁師たちが、急な天候の変化で舟が難破しないように警鐘を鳴らすため季節風に名前を付け、子孫へ伝承してきた、ある地方の民俗用語が由来です。
その後、宮本常一氏が「俳句歳時記(春の部)」に「春一番」という“季語”を紹介したことで、昭和40年代以降に、新聞社がこぞって春一番を使いはじめて、徐々に広まった言葉なのだそうです。
そういうわけで、春一番は、ここ50年間で使われ始めたばかりのわりと新しい気象関係用語なのだそうです。
※関連記事:宮本常一「春一番」の由来と歴史と名言(思則有備)
春の強風は何番まであるのか?
では春の南風は何番まで存在するのでしょうか?
山口県の周防大島の気象についての伝承を調べた民俗学書(宮本常一著「周防大島を中心としたる海の生活誌」1936年)には、「春三番」まで紹介されていました。
曰く――。
“三月中旬になると突然暗雲がたれこめて南から北へ流れ、西南風が吹きすぎる。雨になることが多い。これを春一番という。漁師はこの風をおそれる。この風が吹くと春色がよみがえって来る。
それから半月ほどたったときもう一度豪雨をともなう風が吹く。
それを春二番という。春二番が吹くとサクラの花がひらく。
それからまもなく又雨をともなう強い風の吹くことがある。
これを春三番といい、春三番でサクラの花が散る。
春三番が吹いたあと雨の日が多くなる。
これを三月梅雨、ナタネ梅雨なとと言っている。
麦がのびて刈りとられる頃(※6月頃か?)までの間は西南風が毎日のように吹きわたる。これをハエまたはハエマジと言っている。大島ではマジという言葉が一般的だが帆船乗りたちはハエと言っていた。…”
このなかに「西南風」とあるのは、地勢的に周防大島では真南からの南風が来ることがほとんどないからです。
つまり、
春一番は、春最初の南風で、桜の咲くころの春二番、桜を散らす春三番、ということになります。
そして、
宮本常一氏は「俳句歳時記」に“春一番を紹介した張本人”ですから、俳句の世界では、当然、春一番から春三番までが春の季語となっているのですが、
ただ、俳句の季語をデータベースで調べると、
《 春四番(はるよんばん):春三番の次に吹く強い南風 》
もでてきました。
春四番が宮本常一の命名かも不明ですが…、しかし、春三番の次、とは、なんとも頼りのない解説に驚くばかりです。
春五番も調べましたが、季語の存在は確認できませんでした。
また、
気象庁監修の機関紙「気象 No.107」(1966年3月)の熊谷博(気象協会)氏のコラム「季節のしおり」によると、
“春三番でサクラが咲き、次の春四番の強風でサクラが散るといわれる。この時の荒天を地方によっては「花散らし」ともいう…”
とあります。
春何番と番号が割り振られた春の南寄りの強風は“気象用語”ではなく、ある地方の民間伝承による民俗学的用語だったことから、その辺の定義がたいへん曖昧です。
宮本常一氏の説と、番号や時期に微妙にズレがみられますが、いずれにしても、どうやら春一番から春四番まである、らしいことが分かりました。
さて、私の憶測(想像)で恐縮ですが、
春の南風が何番まであろうがなかろうが、一般人からすると、どうでも良いことです。
ですが、権威ある業界でそれが季語となって定義されてしまうと、ここに多少の問題が生じてしまう…ような気がします。
春の強風が春一番から春四番まである、と仮定した場合、
つまり、春一番の名付け親で俳句の季語を作った宮本常一先生の言うところの、
春三番が吹いて、梅雨の後に毎日吹く“ハエまたはハエマジ”が「春四番」だということになります。
そうすると、時季的にこの春四番は“台風(熱帯低気圧)”による強風の可能性が高まる気がします。
きっと気象学的には、台風(熱帯低気圧)の南風と、春の南寄りの風(春何番)とでは“似て非なる南風”なのかなと思うのです。
だとすると、俳句の季語として既に認定済みの「春四番」の正式名称に対し、何らかの異議や問題提起が過去あったかもしれません。
「春四番がもし台風の強風だったら色々とマズイ…」等々の俳句業界やら気象業界やらの議論があった…かもしれない。
そうして、春二番以降の定義をうやむやに棚上げしてやり過ごそう…なんて大人の事情がもし裏にあったら、それは面白いな、と勝手な想像(妄想)を楽しんでしまいました。すいません。
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さて、今から50年前に、
「春三番」と呼ばれた集団海難事故(1972年3月)
が起こりました。
1972年(昭和47年)3月30日から4月1日の3日間にかけて、日本近海で“春の嵐”が吹き荒れました。
日本海で急に発達した低気圧(日本海低気圧)に、強い南寄りの強風が吹きこんだことから、日本列島の広い範囲に強風が及んだのです。
3月31日、茨城県の日立港から神奈川県の久里浜港へ向かう途中だった材木運搬船「武光丸(2,298トン)」が千葉県の太東埼灯台沖で座礁して沈没し、乗員22名が亡くなりました。
これと前後して、貨物船「ホワポ号(3,682トン)」も日本近海で転覆し、また日本の小型漁船など45隻の船舶が、わずか3日間に転覆・遭難して、106名が犠牲となる大量遭難となりました。
この大量遭難は“春三番”と名付けられました。
春先の低気圧は、急激に発達することがあり、その動きも早く、時として、台風以上に怖いもの、とされる由縁でもあります。
◆執筆者
SEI SHOP(セイショップ)総合プロデューサー
平井敬也(ひらい ひろや)
防災士(日本防災士機構登録No.040075)、日本人間工学会会員。
1970(昭和45)年、東京都世田谷区生まれ。神奈川県横浜市在住。日本大学大学院で安全工学・人間工学を専攻。大学院修了後、大手ゲーム製造メーカーに入社、企画開発、PL(製造物責任法)担当や品質管理(ISO9000)に携わる。2001(平成13)年、災害用長期備蓄食〈サバイバル®フーズ〉の輸入卸元、株式会社セイエンタプライズ取締役に就任。阪神淡路大震災で家族が神戸で罹災、日常の防災意識や危機管理の啓蒙普及を企図した無料メールマガジン『週刊防災格言』を07年よりスタート。毎週月曜日に防災格言を発信し続け2万人の読者を得ている。
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